賢いハンス
二十世紀初頭、ドイツで有名になった「ハンス」と名付けられた馬がいました。
ハンスは、ドイツ語を理解でき、数学の問題を解けるという噂により有名になりました。
ハンスは、質問者が問題を出すと、その答えに応じた数だけ地面をたたき、蹄を打ち鳴らすことで回答することができました。
2+3という質問に対しては、5回蹄を打ち鳴らす。
3×2という質問に対しては。6回蹄を打ち鳴らす。
4の階乗はという質問に対しては、16回蹄を打ち鳴らす。
という様に。
質問者が飼い主でなくても、口頭の質問でも、紙に問題を書いて見せる方法でも、かなりの確率で正答しました。
ドイツ中に噂が広まり、ニューヨークタイムズ誌にも掲載するほど有名になったため、ドイツの教育委員会がこの馬の調査に乗り出しました。
当初、調査を行った13人の評議員はいかさまに違いないと考えていましたが、様々な方法でこの馬の能力を検証していくうち、「ハンスの能力に誤謬は見当たらない」と結論を出しました。
しかし、ハンスの「能力」は、数学の問題を解くというものはなかったのです。
それは、心理学者であるオスカル・ブフングストの調査で明らかになりました。
ハンスは、質問者のボディランゲージや、表情からその感情を読み取ることで正解を導き出していたのでした。
質問者は、ハンスが蹄を鳴らす回数が正解に近づくほど、緊張の度合いが増し、その表情や姿勢によって、緊張を表に出します。
回数が正解に達した時に、その緊張も最高潮に達します。
そこで蹄を打ち鳴らすのを止めると、質問者の緊張が解け、安堵の感情が表に出ます。
ハンスはそれ以上蹄を鳴らすことをやめます。
ハンスが有していた能力は、数学的能力ではなく、「相手の外面から、驚くほど鋭敏に感情や意図を読み取る能力」だったのです。
やはりこれは驚嘆すべき能力です。馬と人は全く別の種族であるのに、馬は人の思いを外面から読み取ることができるのです。
果たして、人間にハンスと同じように言葉が通じない状況で、数学の質問に正答することができるでしょうか。
馬がそれだけ鋭敏に他者の感情を察しようとすることにはどのような意味があるのでしょうか。
これらのことを人間は真剣に考える必要があります。
